house in shinkawa

house in shinkawa 2015

あると同時にないところの境界
私が敬愛する原広司氏の論文に 「空間 〈機能から様相へ)」 (1987年、岩波現代文庫) の「<非ず非ず> 日本の空間的伝統」 がある。 何度読んで も分からない部分を残すのだが、読む時々によっ てさまざまなイメージが誘発され示唆に富んでいる。乱暴を承知で要点を抜き取ると、 日本の空間伝統として 「あると同時にないところの境界に よって生成される空間」 が特徴のひとつであるという考察が書かれている。この住宅の構成の根 にはこの論文がある。

小さな家の大きなテラス
敷地は札幌市内からほど近い比較的古い住宅地にあり 近隣住戸は築40年程度の経過が見受けられる。 おのおの敷地境界をコンクリートブ ロック2段程度の低さで区切っているが、 樹木はお互いに越境しあっているようなおおらかな地城である。 ローコストが要望されていたので、 屋根の積載荷重軽減や防水価格を鑑みて切妻とし、雪を落とすスペースを残して建物は敷地の中央に配置した。 室内空間のフットプリントは 16坪程度。 コストを抑えるため既建材を最大限有効に使い、建物の階高は梁下寸法を既製 建具の高さ寸法に合わせることを基準とした。 上から7寸勾配で屋根を架け、一部は屋根 裏部屋的な個室としている。 また北海道のみな らず、世界的に見て北方の建築は雪から建築を守るために断熱、 気密の取れた厚い壁で必然 的に覆われるのだが、 室内空間の半分もある8 坪の気積の大きなテラスは、雨風を凌げるよう屋根と半透明の表皮で囲われた空間で断熱性能は担保していない。内部のようであり外部のようでもある。 北海道の住宅に見られるサンルー ムの延長線上に位置づけることもできるかもしれない。

差異と反復の物語
テラスと室内は、建築要素の反復により繋がっ ている。 土台、 柱、梁は建物のストラクチャー であると同時に、テラスと室内を横断して反復する構成のストラクチャーも担ってる。また 構造以外の建築要素である天窓や建築金物も同様に繰り返される。 土台に囲まれた床と柱に挟ま れた壁は屋内では合板だが、テラスは夏には開 け放ち雨に当たるため、 デッキ材や羽目板など の外部的な素材とした。これらも寸法は変えずに素材を変え、少しの差異を伴って内外に渡り反復させている。
この住宅は寒冷地に建つという環境上、テラス と室内を分節するガラス、サッシという明確な境界を必要とする。 その明確な境界を反復と差異によって「あると同時にないところの境界」とすることを目指した。 それは実際に (環境的に) 小さな家としながらも、環境と接続し広がりをもつ家にすることができた。

用途専用住宅
所在地北海道札幌市
敷地面積188.84m2
建築面積84.73m2
延床面積106.63m2
設計髙木貴間建築設計事務所 髙木貴間
施工クワザワ工業 今前田徹
写真大瀬戸雄大